仏教には数多くの法要が存在しています。「十夜法要」もまた、そのような法要の種類のうちのひとつです。
ただこの「十夜法要」は、一般的な「一周忌法要」「四十九日法要」に比べると知名度は落ちるものだといえるでしょう。
ここでは、あまり知られていない十夜法要について、
・十夜法要はいつ行うのか
・十夜法要とはどのような性質を持つものか
・十夜法要の歴史
・十夜法要では何を行うのか
について解説していきます。
<十夜法要は、秋に10日間をかけて行う法要のことをいう>
十夜法要は、秋に行われる法要のうちのひとつです。「十夜法要」「十夜念仏会」「十夜講」「十夜法事」「お十夜」「十夜会」などと呼ばれることもあります(ここでは、特別な必要がない場合は「十夜法要」の表記で統一します)。
十夜法要は、名前の通り、10日間をかけて行われる法事です。十日十夜にわたって行われるものであり、一般的な「一周忌法要」「四十九日法要」などとは大きな違いがあります。
なお十夜法要の行われる期間は10月5日の夜(10月月6日)から10月15日までとされていますが、これは陰暦の考え方によるものです。陽暦の考え方によれば10月の終わり~11月の始めごろですから、この時期に十夜法要を行うところもあります。このあたりはどちらが正しい・正しくないといえるものではないのですが、お寺によって開催時期が異なるのでこの点は注意が必要です。
十夜法要の成り立ちについて見ていきましょう。
十夜法要の考え方が興ったのは1430年ごろのことだといわれています。時の将軍であった足利義教の執権を務めていた平貞経には弟(平貞国)がいましたが、彼は武門の生まれでありながら、世の儚さを嘆き、仏門に入りたいと考えていました。
このようなことから、貞国は心のままに京都のお寺に閉じこもり念仏をひたすらに唱えていました。そしてついに俗世を捨てて出家をしようと決心したのです。しかしそのように決意した貞国の夢のなかに、1人の僧侶が現れました。そしてその僧侶は、「信心を重ねることで、来世はきっと救われよう。しかし出家をするには、あと3日間待ちなさい」と説きます。貞国はこの教えを忠実に守り、3日の後に出家をしようと決めました。
しかしその3日後、貞国の元に、足利義教から「貞国が家督を継ぐように」という触れが出されます。現在よりも階級差がもっともっと激しかった時代ですから、出家を決めた後の貞国であっても、これを拒否することはできませんでした。
ただこの触れには、もう1つの別の命令も加えられていました。それが、「今まで貞国が念仏を伝えていたそのお寺で、これから七日七夜の間念仏を唱え続けよ」というものでした。
この、3日+7日間の念仏が、「十夜法要」の起源になったとされています。
さて1430年ごろに成り立った十夜法要ですが、これは時代を重ねることでさらに発展していきます。
1426年~1509年に活躍していた僧侶である第九世観誉祐崇は、当時の天皇である後土御門天皇に宮中に招かれここにはせ参じます。そしてそこで、第九世観誉祐崇は後三門天皇に対して、阿弥陀経の教えを説き、引声念仏(いんぜいねんぶつ。音楽のように聞こえる念仏のことをいう)を伝えました。後土御門天皇はこれに感じ入り、1495年に第九世観誉祐崇が勤めていた大本山光明寺で十夜法要を行うことになったとされています。現在の仏教は数多くの宗派に分かれていますが、第九世観誉祐崇の所属していた浄土宗における十夜法要の起源はここにあるのだとされています。
なおここでお話しした「十夜法要の歴史」は、あくまで一説にすぎません。
「いや、十夜法要は白河天皇が始めたものであり、恒例行事となったのは室町時代からだ」とする説もあります。白河天皇が生きていた時代は1053年~1129年ですから、この説に従うのであれば、十夜法要はさらに長い歴史を持っているものといえるでしょう。
<十夜法要では何をする? 現在の十夜法要とは>
さて、では十夜法要では何をしていけばいいのでしょうか。
十夜法要は、基本的には「修行するための法要」とされています。重要なのは、十夜法要は一周忌法要や四十九日法要とは異なり、原則として「すでに亡くなってしまった人の追悼供養」という側面はほとんど持っていないということです。
お釈迦様が伝えてくださったお経を唱え、悟りの世界に近づこうとするのがこの「十夜法要」なのです。ちなみに、浄土真宗で非常に重んじている経典においては、「誘惑や悪行が多い属世界において10日間修行をすることは、何の迷いも誘惑もない仏の世界で行う1000年の修練を凌駕する」ともいわれています。
ただ一方で、新十夜(にいじゅうや)と呼ばれるものもあります。これは、「家族が亡くなってから初めて迎える十夜法要のこと」をいいます。また、十夜法要に合わせて合同供養を行う納骨堂などもあります。このようなことを踏まえれば、「十夜法要は基本的には生きている人が修行を積む日ではあるが、亡くなった方とも関係があるものである」といえるでしょう。
さて、この十夜法要に何を行うかを見ていきましょう。
十夜法要では、お寺に集まって法要を行います。新十夜であったとしても、個人宅でこれを迎えることは原則としてありません。合同法要というかたちをとることが基本となるでしょう(※ただし、故人が亡くなられてから初めて迎える十夜法要である「新十夜」にあたる場合は、事前に菩提寺に連絡をしておくことをおすすめします)。
どのように十夜法要を行うかはお寺によって多少違いがありますが、よく見られるのは、ご僧侶さまによる法話が行われ、焼香で場を清めて、雅楽の演奏が行われる……というやり方です。またこの十夜法要を行う日は、お寺に続く参道に多くの屋台が立ち並ぶといった光景もよくみられていました。
すでに述べた通り、十夜法要は原則として十日十夜にわたって行われるものです。しかし現在は、実際に十日十夜をかけてずっと法要を行うお寺は決して多くはありません。初七日法要が繰り上げ初七日法要として火葬の日に行われるようになったように、あるいは二七日法要~六七日法要が省略されるようになったように、十夜法要もまた、現在では「開催期間」が短くなっています。7日間や3日間、あるいは1日間……といったように、短縮して行われるケースが多くみられるようになりました。
また、十夜法要も新型コロナウイルス(COVID-19)の影響を免れませんでした。「十夜法要では、参道に多くの屋台が立ち並んでいた」としましたが、新型コロナウイルス(COVID-19)後ではこれらの出店を中止したお寺もみられます。また感染症流行前は多くの人を募って行っていた十夜法要を、一般の参拝客は受け入れず僧侶だけで行うようにしているお寺もあります(※配信などで対応しているところもみられます)。
このため、2020年以降の十夜法要は、それまでの十夜法要とは大きく様相が異なっているといえるでしょう。
なお2022年の十夜法要に参加したい場合は、事前に参加予定のお寺がどのようにして十夜法要を行うつもりなのかを確認しておくようにしてください。
十夜法要は、私たちがよく知る「法要」とはまた違った性質を持つものです。また、十夜法要を知らなかった人もいることでしょう。しかし十夜法要もまた、自分自身の修行を積む意味で非常に大切なものなのです。気になった人は、今年の十夜法要に参加してみてもよいのではないでしょうか。