私たちが当たり前にしている「お墓参り」は、あまりにも生活に根付きすぎているため、逆に「なぜ行うのか」意識していない人も多いものだといえるかもしれません。
ここでは原点に立ち返り、
・人はなぜお墓参りを行うのか
・宗教ごとによるお墓参りの違い
・お墓参りのときに行いたいこと
について解説していきます。
<故人を悼み、故人と向き合うために行うのがお墓参り>
お墓参りは、故人を悼み、故人と向き合うために行う行為です。またお墓参りで、自分を生み育んでくれたご先祖様に感謝することもできます。
お墓参りを行うタイミングに決まりはありませんが、夏のお盆シーズンにお参りに行く人は非常に多いものです。また、春のお彼岸の時期にお墓参りをしたり、結婚や出産後にご先祖様に報告するためにお墓に立ち寄ったりする人も多くいます。
お墓参りを行う頻度は、ご家庭や個人によって大きく異なります。毎日あるいは1週間に1度のようにこまめに通う人もいますが、その一方で、「お盆やお彼岸の時期だけ」「数年に1度の帰省のタイミングのときだけ」「地元にいたときは足しげく通っていたが、遠方に引っ越してからは一度も行っていない」という人もいます。近年は特に新型コロナウイルス(COVID-19)の流行もあり、行きたくてもなかなか足を運べない……となっている人もいます。
ちなみに現在は、このような人のために「お墓参り代行サービス」も提供されています。これは、墓地に足を運べない人のために業者がお墓参りを行うもので、献花や簡単な掃除、線香をあげるなどの対応をするものです。ご家族本人が足を運べない環境であってもお墓が荒れることなく、きれいに維持ができるのが大きなメリットです。
なおお墓参り代行サービスは、業者ごとにプラン内容と値段が違います。また1つの業者が内容の異なる複数のお墓参り代行サービスプランを用意していることもあるので、利用する場合には比較して選んでいくとよいでしょう。その際には、まず前提として、「自分の依頼したい業者が、自分たちの墓地のある地域を対象としているかどうか」を先に調べておくと無駄がありません。
<お墓参りのやり方は、宗教によって異なる>
葬儀の内容や目的は、故人(やご家族)が信仰していた宗教の死生観によって大きく異なります。葬儀がそうであるのならば、当然、それと紐づけて考えられるお墓参りも、それぞれの宗教の死生観を反映するものとなります。このため、同じように「お墓参り」としていても、その内容や目的は大きく異なります。
お墓参りの目的ややり方を、宗教別にみていきましょう。
【仏教】
上で述べた「お彼岸」「お盆」は、本来は仏教の考え方によるものです。ただ、お盆は全国的に夏休みとかぶりやすいため(※旧暦に従った場合を除く)、仏教徒でなくてもこの時期にお参りに訪れる人は多いといえます。
仏教では、お墓参りを「追善供養」のひとつととらえます。追善供養とは亡き人に代わって残された人が善行を積むものであり、これによって故人も浮かばれるとする考え方です。
仏教の場合は、非常によく菊(仏花)が用いられます。白や黄色の菊が基本ですが、お墓参りの場合は故人が愛したお花を用いることが多いといえます。掃除(後述します)をしたのちにこれを左右の花立にそれぞれ入れて、お供え物を置きます。
なお現在は、「果物などのナマモノをお供え物とするのは厳禁」としている霊園が多いかと思われます。これは、鳥害や虫害を招くからです。そのため、置いたお供え物はすぐに持ち帰るようにしましょう。
お線香のあげ方は、宗教によって異なります。基本的にはそのまま素直に線香立てに立てればよいのですが、一部の宗派ではあえて線香を折り、それを横にしておきます。
お祈りをする際は、数珠を用いるのが一般的です。数珠の球数や形状は宗派によって異なりますが、手持ちのものを使ってしまっても問題はありません。
故人に報告を行い、家族が全員健康であることなどを告げましょう。
【神道の場合】
便宜上神道の場合も「お墓参り」といいますが、厳密には「奥津城(おくつき)」と言われます。ただ少々わかりにくいため、ここでは「お墓参り」に統一します。
仏教の場合はお寺のなかに墓苑があることが多いのですが、神道の場合は神社にはお墓はありません。神道では死を穢れとするため、神域である神社にはお墓は建てられないのです。
ただ、お墓参りの意味自体は、神道と仏教の間には大きな違いはありません。現状をご先祖様に報告し、ご先祖様の安らかならんことをお祈りします。
なお、神道では「冥福を祈る」という言葉は使いません。「冥福」は仏教用語だからです(※仏教においても、一部の宗派は冥福の概念を持ちません)。
神道のときには、榊がよく用いられます。ただ神道でも花をささげることはします。なお、神道では原則としてお線香はあげません。
「神社では二礼二拍手一礼をする」ということはよく知られていますが、お墓の場合も同じです。少し詳しい人ならば、「葬儀のときはしのび手(音を立てない)だと聞いたけれど、お墓参りのときはどうするのか」と疑問に思うこともあるでしょう。
この疑問への答えは、「五十日祭が終わるまではしのび手で、それ以降は音を立てても問題がない」が正解です。
【キリスト教】
キリスト教の場合は、白いカーネーションや白いユリなどを用意します。仏花のイメージが強い菊は、避けておいた方が無難です。
キリスト教では、「亡くなった人は神様の御許で永遠の安息を得る」と考えます。そのため、お墓参りには、仏教のような追善供養の性質は伴いません。キリスト教でもお墓参りのときにお祈りはしますが、これは神様にささげるお祈りとなります。故人に対して手を合わせる仏教とは、本質的に「祈りの意味」が異なるのです。
また仏教や神道では、指先をぴんと伸ばして手のひらを合わせますが、キリスト教の場合は指を交互に組んでお祈りをします。
節目となる日には、聖歌を歌ったり、聖書の読み上げを行ったりすることもあります。
<お墓参りのときの掃除について>
最後に、お墓参りのときに行う「掃除」について解説していきます。
掃除は、きれいな雑巾で墓石を磨き上げることから始めます。水場は霊園内に用意されているはずですから、それを使いましょう。汚れがひどいときは、柔らかいスポンジを使います。
また、花立や線香置きも忘れずに洗い上げましょう。
基本的には、お墓の掃除は水洗いで十分です。ただ、汚れが非常にひどい場合は洗剤を使うことになるでしょう。しかし無分別に洗剤を使ってしまうと、逆にお墓を傷めることになります。理想的なのはお墓を購入した業者に電話をかけて、お手入れの方法を教えてもらうことです。それが難しい場合は、お墓用の洗剤を使いましょう。お彼岸などの前には、プロの墓石クリーニングを利用するのも手です。
お墓の掃除が終わったら、墓所内もきれいにしましょう。雑草を引き抜いたり刈ったりしてください。これを放置しておくと、隣や向かい側の人が迷惑をこうむります。なお、「1年に1回程度しか帰れない」ということであれば、草が生えにくくなるような処置(砂利を置くなど)を行うことも重要になってきます。
「お墓参り」は、故人と向き合い、故人を思いやるためのものです。
やり方や意味をしっかり知っておきたいものですね。