〔あおき葬祭コラム〕第84回:お釈迦さまの誕生日、甘茶をかけるのはなぜ?

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「お釈迦さまのお誕生日には、甘茶をかける」

少し仏教に詳しい人ならば、このような風習を見聞きしたことがあるはずです。

ただ、「なぜこのようなことをするのか」についてまでは知らないという人も多いのではないでしょうか。

ここでは、お釈迦さまの誕生日と、そのときに甘茶をかける意味について解説していきます。

<お釈迦さまの誕生日はいったいいつ? まずはそこから>

お釈迦さま(ブッダ、ゴーダマ・シッダールタ。これ以降は「お釈迦さま」の表記で統一する)に甘茶をかける儀式は、お釈迦さまのお誕生日に行うものです。そのためまずここでは、「そもそもお釈迦さまの誕生日っていつ?」という話からしていきましょう。

一般的に、お釈迦さまの誕生日は4月8日だと解釈されています。ちょうど桜の見ごろとなることから、この日を「花まつり(灌仏会・かんぶつえともいう。これ以降は「花まつり」の表記で統一する)」とも呼びます。日本では特に、この4月8日=お釈迦さまのお誕生日、という解釈が一般的です。

ただこれに旧暦の考え方を照らし合わせて、5月8日をお釈迦さまの誕生日と解釈する場合もあります。実際に、寺院のなかには「4月8日に花まつりを行う」としているところがある一方で、「旧暦の考えに従って、5月8日を花まつりの日とする」としているところもみられます。

また、この「4月8日」というのはひとつの目安にすぎません。

お釈迦さまは何しろ2500年ほども前の人であるため、王族という高貴な生まれであっても、その誕生日がしっかりと明確に記載されているわけではないのです。北伝仏教圏においては、上で述べた通り4月8日をお釈迦さまの誕生日としていますが、インドをはじめとする南伝仏教圏においては2月15日が誕生日とされています。

ただ、どちらの説をとるにしても、お釈迦さまという存在が大切にされてきたがゆえに、その誕生日もまた特別なものになったことには変わりありません。

<花祭りはどこからきた? その歴史について>

それでは、花まつりという文化はどこから出てきたのでしょうか。

これは、仏教誕生の土地であるインドから出てきた考え方だといわれています。

そのときには、仏像に礼拝したり、仏像を担ぎ上げて町を歩いたりしたと考えられています。その後、中国にこの花まつりの文化が伝わったとされています。

当時の日本にとって、中国は「先生」でした。仏教の考え方も、大陸から日本に伝わってきます。その最中で、花まつりの文化も日本に伝わったと推測されます。

なお、日本において「花まつり」が初めて行われたのは、606年だといわれています。女性の天皇であった推古天皇の時代において、現在の花まつりの原型となる催しが行われたと、日本書紀に書かれています。ただ当時の花まつりは、今のような形態ではなく、「行列を作って歩き、舞踊や音楽を奉納する」というようなかたちであったとされています。

(ただし、書物に書かれたのが606年ですから、その前からもなんらかのかたちで花まつりが行われていた可能性はあります)。

みやびやかなイメージが強い平安時代には、貴族を中心とした宮中の行事としてこの花まつりが取り上げられ、根付いていくようになりました。

また、花まつりの考え方に強い影響を与え、そしてそれが広まることに深く関わった存在として、「熊野・吉野の修験道があった」と示唆されています。修験道は日本の仏教にみられる修行の形態であり、山に入り山にこもって、厳しい仏教的な修行を積んでいくことをいいます。修験道では、人里から遠く離れた場所を修行の場として選ぶ傾向にありましたが、その移動の際に、彼らが各地に「花まつり」の文化を広めていったと推測されています。

そして貴族文化から始まった行事は、そのうちの少なくない数が、やがて庶民にも伝わっていくようになります。花まつりも例外ではなく、江戸時代には庶民にも親しまれるようになりました。このころになると、花まつりについて言及した書物も多く著わされるようになりましたし、またそのうちの少なくない数が現在も引き継がれています。

ちなみに、今回取り上げる「甘茶をお釈迦さまの像にかける」という文化は、すでにこの江戸時代にはできていたといわれています。町民文化が花開いた江戸時代において、花まつりの文化は現在受け継がれているものと近しい形態をとるようになったとされています。

<花まつりで甘茶をかける理由は、お釈迦さまの生まれたときのエピソードに基づく>

花祭りの日と花まつりの歴史を見たうえで、「それでは結局なぜ花まつりのときにお釈迦さまに甘茶をかけるのか」の問いの答えを見ていきましょう。

お釈迦さまがお生まれになったとき、彼はすぐに自らの足で7歩歩いたといわれています。そしてこのとき、左手で地面を、右手で空を指して「天上天下唯我独尊(てんじょうてんげゆいがどくそん)」と言ったとされています。この言葉はしばしば、「天と地のなかで自分だけが偉い」と誤って解釈されますが、実際には、「この世の誰一人として自分と取って代わることはできない。人は、ありのままの姿であっても、ただいのちがいのちであるがゆえに尊い」という意味で解釈されます。

このようにして産まれたとされているお釈迦さまですが、天はその誕生を寿ぎ、彼の産湯として天空から甘茶を降り注がせたとされています(ただし、「9匹の天の龍が、美しく清らかな水を降り注がせた」という説もあります)。このことから、「お釈迦さまの誕生日には、お釈迦さまがお生まれになったときと同じように、甘茶をかけよう」とする考え方が出たのだと解釈されます。

ちなみに、意外に思われるかもしれませんが、この花まつりの際にお釈迦さまにかけられるのは甘茶だけではありません。香水をかける文化も存在します。中国などでは、複数の香料を使った香水をかけるようになっているのです。これは、「そもそも甘茶の原料となるアマチャという種類の葉の栽培地域が違うから」などのような理由からだと思われます。

ちなみにこの「甘茶」は、名前からも分かる通り、非常に甘味の強いものです。アマチャは加工することで、砂糖の600倍近くもの甘味を持つことになる植物であり、広く飲まれてきました。ちなみにアマチャは、アジサイの仲間だといわれています。

「お釈迦さまに甘茶をかける」というかたちで親しまれてきた甘茶ですが、これのためだけに花まつりに甘茶が登場しているわけではありません。お寺やお寺系列の保育園などでは、甘茶を来訪者や生徒にふるまっています。花まつりの時期に寺院に足を運べば、多くの寺院が来訪者にこれを無料で配っているので、頂いてみるとよいでしょう。花まつりの時期は草餅などをお供えするといわれていますから、これと併せて楽しんでもいいものです。また、花まつりのときには、お寺で子どもたちの健康をお祈りする儀式が行われています。

長く親しまれている「花まつり」と、その際にお釈迦さまにかけられる「甘茶」、ぜひ楽しんでみてくださいね。

※本記事は2022年3月末日現在のものです。現在は新型コロナウイルス(COVID-19)の影響もあり、寺院のなかには例年と異なる形式で花まつりを行うところもあるかもしれません。実際に足を運ぶ前には、来訪予定の寺院の公式ホームページを必ず確認してください。