〔あおき葬祭コラム〕第26回:「除夜の鐘」のいわれとつき方について

投稿日 カテゴリ おあきの葬祭コラム, お知らせ

「除夜の鐘」は、年末に必ず話題になるものです。今回はこの「除夜の鐘」について解説していきます。

<除夜の鐘の鐘は、仏教に関わるものです~その歴史について>

「除夜の鐘(じょやのかね)」は、仏教に関わるものです。除夜の鐘を鳴らすことは仏教の行事のうちのひとつとして昔から親しまれ、令和の世でも生き続けています。

除夜の鐘の歴史は古く、その起源は宋(中国の王朝のうちのひとつ。960年から1279年あるいは1276年までの間存在したもので、仏教においては浄土教が広く浸透していくこととなった。元によって敗れた)の末期にまでさかのぼることができるといわれています。そのころの宋では、除夜の鐘は「鬼払いのための文化」として扱われていました。

この除夜の鐘は、鎌倉時代(諸説はあるが、1185年から1333年まで続いたとされる。日本の時代のうちのひとつ。源頼朝が平家を打ち滅ぼしたことによって興った)に日本に伝わったとされています。ただ、除夜の鐘の文化が広まっていったのは鎌倉時代ではなく、1336年から1573年まで続いた室町時代だったとされています。それがさらに広がりを見せるのは、「町人文化」として名高い江戸時代になってからのことでした。江戸時代になると、日本全国、各地のお寺で除夜の鐘が打たれるようになったといわれています。

除夜の鐘には800年近くの歴史があり、そしてその歴史のなかで、人々に広く親しまれてきたものだといえるでしょう。

<除夜の鐘に使われている「梵鐘」の話について>

ここからは、「除夜の鐘の意味」について考えていきましょう。

除夜の鐘は、「梵鐘」と呼ばれる鐘を大晦日に打ち鳴らすことです。「梵鐘」という言葉は多くの人にとってなじみの薄いものかとおもわれますが、これは「ぼんしょう」と呼びます。除夜の鐘の、まさに「鐘」「釣鐘」にあたる部分です。平家物語の冒頭に、“「祇園精舎の鐘の音、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色,盛者必衰の理をあらわす。奢れる人も久からず、ただ春の夜の夢のごとし。猛き者も遂にはほろびぬひとえに風の前の塵におなじ」-引用:P+D MAGAZINE【祇園精舎の鐘の声……】『平家物語の魅力を知ろう。https://pdmagazine.jp/works/heike-monogatari/”とありますが、この「祇園精舎の鐘の音」は、この「梵鐘」の鐘の音を表します。

梵鐘はさまざまな素材で作られていますが、その起源は中国であるといわれています。仏教はインドを起源としますが、梵鐘の起源は中国の青銅の道具からきていると考えられています。

梵鐘はかつては、「時計」としての役割を果たしていました。「時の鐘」とも呼ばれており、1日に何回か鐘がつかれ、それによって庶民は時間を把握していたとされています。

ただ上で平家物語のことを取り上げたように、梵鐘は単純に「時間を知らせるためのもの」だけではありませんでした。

ときに梵鐘と梵鐘の奏でる音色は、仏教の持つ諸行無常観、すべてのものは永遠ではなく必ずうつろいゆくものであるという仏教の考えを記すものだと解釈されます。このような解釈から「祇園精舎の鐘の音」は、一時期は栄華を極めながらも、やがて源氏に打ち滅ぼされる平家の物語を描いた「平家物語」の象徴的な表現だとも考えられています。

また、「梵鐘」の「梵」の文字は、サンスクリット語の「清浄」を表す言葉からきているともいわれています。清浄で清らかな梵鐘の音色は、仏様のお声をイメージさせるものだとしてありがたがられてきました。梵鐘の音を聞くことで苦しみから解放され、悟りにいたることができると考えられているのです。

さらに、「盆と正月に梵鐘をつくのはご先祖様へのお参り」という考え方がありました。これが時代を経るに従い、「お正月は神様にお祈りをして、その年の豊穣を祈る」という解釈に変わったのですが、大晦日~お正月にかけて梵鐘を鳴らすのはこの名残だとする説もあります。

私たちは「除夜の鐘」というと、「除夜の鐘そのものが持つ意味」の方にばかり注目してしまいがちです。しかし除夜の鐘の音色を響かせる梵鐘にも歴史があり、また解釈があります。これを知ることで、より真摯に「除夜の鐘」に向き合うことができるようになるでしょう。

<除夜の鐘の持つ意味と回数について>

ここからはいよいよ除夜の鐘の持つ意味について解説していきます。

除夜の鐘は、ご存じ、108回つかれるものです(※お寺によっては、「並んでいる人に1人1回ずつついてもらう」としているところもあります)。

ではこの「108」はどこからきているのでしょうか。

この数の意味は諸説ありますが、もっとも有名なのは、「煩悩の数」というものでしょう。おそらく、ほとんどの人が除夜の鐘をつく数の由来として、この「煩悩の数」を上げるかと思われます。ただ、「何が108個の煩悩なのか」は知らない人が多いものです。

仏教では、人は、

・眼(げん)

・耳(に)

・鼻(び)

・舌(ぜつ)

・身(しん)

・意(い。こころ)

の6つの感覚を持っているとしています。そしてその6つの感覚に、それぞれ、「良(好)」「悪」「平」の3つの受け方があり、これは「浄(美しい)」と「染(汚)」の2つに分けられます。

さらに、「前世」「現在」「未来」の時間軸に分けると考えています。

この「6つの感覚」×「3つの受け取り方」×「2つの分け方」×「3つの時間軸」を掛け合わせた数が「108」となり、これを「108の煩悩」としているとされています。

これがもっとも一般的な解釈です。

ただしこの解釈も、実は「除夜の鐘の108回の解釈のひとつ」にすぎません。数の解釈はいろいろあります。1年を細かく分けると二十四節季(にじゅうしせっき。立春などに代表される、1年間を細かく分けた言葉)」と、この二十四節季をさらに細かく分けた「七十二候(しちじゅうにこう)」の数をあわせた数字が108であることから、108回つく……とする説もあります。

さらに、108という数字がそもそも「非常に多いこと」を示す言葉であることから、108回つくとしている解釈もあります。

どの解釈をとるかは人によって異なりますからどれが正しいとはいえませんが、その意味を知ることで、除夜の鐘はより深い意味を持つことになります。

なお、大晦日につかれる除夜の鐘の行事は、「除夜法要」「除夜会(じょやえ)」などの名前で呼ばれることもあります。ただ、「大晦日につかれる」といっても、除夜の鐘は、実際には年が明けた後もつかれています。除夜の鐘がつかれるのは大晦日の23時ごろから1月1日の1時くらいまでとされています。

「お寺に参拝してきた人に除夜の鐘をつかせる」としているお寺も多くみられます。なお、人気のお寺などでは整理券が配られることもあります。ただ2020年は新型コロナ(COVID-19)の影響もあり、「例年は参列者を受け入れているが、今年は参列者につかせない」「非公開とする」としているところが多くあります。これはお寺ごとによって考え方が異なるため、除夜の鐘をつきたい(あるいは除夜の鐘をついているのを見たい)という場合は、事前にそのお寺の実施状況を調べてからにするとよいでしょう。

一年の汚れを落とし、新年に向かうための行事のひとつである「除夜の鐘」。これは何百年と受け継がれてきた歴史と文化でもあります。今年はなかなか制限が厳しいところも多くみられますが、心静かに、除夜の鐘の音色に耳をすませたいものですね。