キリスト教や神道に年中行事があるように、仏教にも年中行事があります。仏教の年中行事といえば「花まつり(灌仏会・かんぶつえ)」が有名ですが、それ以外にもさまざまな行事があります。
今回は12月に行われる「成道会(おさとりの日)」について取り上げます。
<成道会(おさとりの日)ってどんなもの? おしゃかさまとの関わりの深い法要について>
成道会は、「じょうどうえ」と読みます。広く「おさとりの日」ともいわれているので、ここでは「成道会(おさとりの日)」として解説していきます。
おしゃかさまは、長い修行の末にさとりを開かれました。成道会(おさとりの日)とは、この「さとりを開いた日」を記念して行う法要(法会・ほうえ)のことをいいます。
成道会(おさとりの日)は、12月8日と決まっています。この成道会(おさとりの日)は仏教に詳しくない人にとってはあまり聞きなじみのない言葉かもしれませんが、実は上で挙げた花まつり(灌仏会)と並んで非常に重要視されている日なのです。4月8日に行われる花まつり(灌仏会)、12月8日に行われる成道会(おさとりの日)、そして2月15日に行われる涅槃会(ねはんえ。仏様が入滅したご命日のこと)は、3つを合わせて、「釈尊三大法要(しゃくそんさんだいほうよう)」あるいは「三大法会(さんだいほうえ)」と称されています。
おしゃかさまが悟りを開き、仏道を成就されたこの日は、まさに「仏教の教えが生まれた日」だといえるでしょう。
私たち俗世に生きる人間にとってさとりを開くことは決して簡単なことではありません。そのため、花まつりや涅槃会に比べるとどうしても親しみにくいものだと感じられるかもしれません。
しかしさとりを開くことが容易ではない私たちであっても、悟りを開かれたおしゃかさまに感謝をささげ、その偉業をたたえることはできます。そのため成道会(おさとりの日)は、現在では、「おしゃかさまがさとりを開かれたことに感謝しながら、それをたたえる日である」という性質を持つようになっています。
さて、仏教は世界各国に広がっていくうちに、いくつかの宗派に分かれていきました。
「在来仏教」と呼ばれるものだけでも、「天台系」「真言系」「浄土系」などの9つの系統に分かれています。「宗派」として分けるのであれば、「浄土真宗」「曹洞宗」「浄土宗」などのように、さらに多くの種類に分けることができます。
宗派によって、本尊やおまつりのやり方、焼香の方法などが異なってきます。また、新興宗教系を数えれば、その種類はさらに多くなるでしょう。
ただ成道会(おさとりの日)の場合は、どのような宗派でも変わらずに重要視するとされています。そのため、浄土宗のお寺でも曹洞宗のお寺でも、この成道会(おさとりの日)の法要は行っています。
言い方を変えれば、「どのような宗派であっても重要視されるくらい、成道会(おさとりの日)は大切なおまつりの日だ」ということになるでしょう。
実際、現在もこの日に法要を行うお寺は非常に多く、また仏教系の保育園などでも行事を行うことが多いといえます。
※なお2020年は新型コロナウイルス(COVID-19)の問題もありますから、これについてもヤムを得ず見直しが行われる可能性はあります。
<成道会(おさとりの日)にまつわるおしゃかさまのエピソードについて>
ここからは、成道会(おさとりの日)にまつわるエピソードを紹介していきます。
おしゃかさまが、ネパール地方の王子として生まれたことはもう多くの人が知っていることでしょう。
何不自由のない生活をしていたおしゃかさま(ゴーダマ・シッダールタ)でしたが、その恵まれた生活のなかでも無常を感じて、29歳のときにすべてを捨てて出家をします。しかしすべてを捨てて出家をしたとしても、すぐにさとりが開けたわけではありません。6年間にわたる厳しい修行のなかに身を置いても、おしゃかさま(ゴーダマ・シッダールタ)は未ださとりを開けず、真理を見出すことができませんでした。
そのため、「このまま修行を続けていていいのか」と考えて、一度それをやめてしまいます。
しかしその後、村娘であるスジャータから1杯の乳がゆを施されます。その乳がゆはおしゃかさまの体を癒したとされます。
そして、今度はおしゃかさま(ゴーダマ・シッダールタ)は瞑想に入られました。この瞑想の期間は何日間だったか? に関しては諸説あります。専門サイトによって、「7」としているところもあれば、「21」とするところもありますし、また「49としているところもあります。いずれにせよ、この瞑想機関には、おしゃかさま(ゴーダマ・シッダールタ)には数多くの誘惑が襲い掛かってきます。また野獣などのように命の危険を脅かすような幻想も訪れます。しかしそれでもおしゃかさま(ゴーダマ・シッダールタ)はそれに打ち勝っていくのです。
そして瞑想の最終日、おしゃかさまは、明けの明星が輝くなかでさとりを開かれたとされています。
このときおしゃかさまは35歳であり、静かに手を合わせて、現在の仏教でもよく唱えられている「南無仏」と口にされたと考えられています。
この、「明けの明星が輝き、おしゃかさまが悟りを迎えられた日」こそが12月8日であり、現在の成道会(おさとりの日)なのです。
つらい修行とそれに打ち勝つ精神性がもたらしたさとりの日が、現在も成道会(おさとりの日)として受け継がれているのは、その話を聞いた人たちがおしゃかさまの精神の気高さに感服し感謝したことが理由だといえるでしょう。
<成道会(おさとりの日)には何をすればいいの?>
では、この大切な日である成道会(おさとりの日)のときには何をすればよいのでしょうか?
仏門に入った僧侶たちは、12月1日から12月8日までの間、座禅修行を行います。これは「臘八大摂心(ろうはつおおぜっしん)」と呼ばれるものです。また、おしゃかさまが苦行を終えられたときの姿をうつしとった像を掲げて法要に励みます。
ただ、一般の人がここまでの法要を行うのは現実的ではありません。そのため、丁寧に手を合わせて、おしゃかさまに感謝をしながら「南無阿弥陀仏」と唱えるだけで良いでしょう。
なお施設によっては、この日に、成道会(おさとりの日)にちなんだものを配るところもあります。上でも述べたように成道会(おさとりの日)には村娘スジャータが出した「乳がゆ」も関わっています。そのため、みんなで牛乳を飲む……という催しをやっているところもあります。
なお乳がゆ自体もそれほど難しいものではなく、お米を牛乳や蜂蜜、生クリームや塩で炊き込んで作ることができるものですから、おしゃかさまに思いを馳せて、ご自宅で作ってみるのもよいかもしれません。
また、京都では「大根」を振る舞うという風習もあります。千本釈迦堂大法恩寺では、12月7日~12月8日にかけて、味付けした大根を振る舞っています。4本の大根を切って8本にし、そこに梵字を書いて供えて悪魔祓いをしていたのですが、その悪魔祓いに使われた大根をほかの大根と一緒に煮炊きして出していたのがこの風習の由来だとされています。
おしゃかさまが12月8日に開かれたさとりの概念は、それから数千年経った今でも私たちに引き継がれています。そのことに感謝しながら、成道会(おさとりの日)を過ごしてみてはいかがでしょうか。