お盆の時期を過ぎるとやってくるのが「秋のお彼岸」の時期です。
今回は、2021年のお彼岸と2022年のお彼岸を取り上げ、その日程や成り立ちの意味、何をするのかなどについて解説していきます。
<お彼岸の日程は毎年異なる>
意外に思われるかもしれませんが、お彼岸の日程は毎年異なります。
これは、お彼岸が「秋にある秋分」「春にある春分」によって左右されるからです。
秋のお彼岸は秋分の前後3日間、春のお彼岸は春分の前後3日間がその日程となるため、毎年少しずつ変わっていくわけです。
2021年の秋分の日は9月23日ですから、2021年の秋のお彼岸は9月20日~9月26日です。
また、来年にある2022年の春分の日は3月21日ですから、2022年の春のお彼岸は3月18日~3月21日です。
なおこのようなお彼岸にまつわる言葉として、「暑さ寒さもお彼岸まで(彼岸まで)」というものがあります。
残暑の厳しい年であってもその暑さは秋のお彼岸で終わるし、寒さが厳しい年であってもその寒さは春のお彼岸で終わる……という季節の特徴を語った言葉です。今のように冷暖房器具が整っていなかった時代においては、このような言葉を支えとして暑さや寒さを乗り切っていた人も多くいたことでしょう。
<お彼岸の意味や歴史、考え方について>
暦に深く関わってくる「お彼岸」ですが、これにはどのような意味がありどのような歴史があり、またどのような由来があるのでしょうか。
それについてみていきましょう。
まず「彼岸」という言葉ですが、これにはいくつかの意味があります。
たとえばごく単純に、「向こう側にある岸のこと」を指すこともありますし、今回のように「彼岸会(ひがんえ)」を表す言葉として使われることもあります。なお俳句などでは「彼岸会」は季語としても使われますが、このときにはもっぱら春の季語として採用されています。
比較的よく知られた言葉としての「彼岸」は「あの世」「悟りを得た世界」のことでしょう。これも仏語の一種です。このように使う場合は、生死における迷いを川などにたとえています。なお、この場合の対義語として「此岸(しがん)」が挙げられます。此岸は「私たちが今住んでいる世界」「迷いのある世界」を示す言葉です。
現在では仏教徒以外でも「お彼岸」という言葉を使うようになりましたし、「彼岸」という言い回しも比較的メジャーです。ただその言葉の由来は、仏教にあります。
お彼岸という言葉は、「到彼岸(とうひがん)」からきています。これは上記で挙げた「悟りを得た世界」とリンクするところが大きい解釈です。
仏教では菩薩が仏様になるために修行を行うことを「波羅蜜(はらみつ。六波羅蜜ともいう)」と呼びますが、この波羅蜜とほぼ同じ言葉として「到彼岸」が使われます。此岸から彼岸に至るための修行を到彼岸というわけです。
なおその修行の内容については、「六波羅蜜」にあらわされています。
・布施……現在は「お布施」という言葉となり「ご僧侶に対してお渡しするお礼・金銭」と解釈されることが多いのですが、もともとの意味は「見返りを求めずに行う、人に対する善行」です。
・持戒……仏教における戒めを順守することをいいます。なお「自戒」は「自分の言動を戒めること」をいいます。持戒の対義語は「破戒」です。
・忍辱……「にんにく」と読みます。困難や苦しみに耐え抜くことをいいます。
・精進……「精進落とし」などの言葉で葬儀の場面でも使われることがありますし、仏教用語以外でも用いられることがある言葉です。もともとの意味は、「最善を尽くし、努力し続けること」をいいます。
・禅定……「ぜんじょう」と読みます。位を譲る「禅譲」とは意味も表記も異なります。「禅定」とは、第三者の視点で自分を俯瞰し、冷静でいられるようにすることをいいます。
・智慧……現在は「知恵」の常用外の漢字であると解説されることもありますが、公平な視点に立ち、真実を見る力を持つこと、とされます。
この6つを得るための修行を行うことを「六波羅蜜」といいます。
さてこの「お彼岸」ですが、仏教用語であることもあり、インドから伝わってきたものだと思われがちです。
しかし実はお彼岸は、インドにはない日本独自の文化なのです。言葉の意味や考え方は仏教を祖とするものの、その風習自体は日本の風土によって育まれてきたわけです。
ちなみにこのお彼岸の歴史は驚くほどに古く、1200年ほども前にまでさかのぼることができるとされています。
西暦806年には、日本で初めてとなる彼岸会が行われました。これは無実の罪で亡くなったとされる早良天皇のために行われたものでした。無実の罪で幽閉された早良天皇は断食によって自らの潔白を示そうとしますがその最中で死亡、その恨みでさまざまな疫病や洪水、日照りなどを引き起こしたとされています。そのたたりを鎮めるために、諸国の僧侶が行ったのが、初めての「お彼岸」とされています。
なお、840年に著わされた「日本後期」では春と秋の2回にわたるお彼岸のことが記録されているため、こちらを「お彼岸の元祖」としているページもあります。
どちらの説をとるにせよ、お彼岸の歴史自体が非常に古いものであることは間違いありません。
<お彼岸のときには何をする?>
では、お彼岸のときには何をするのでしょうか。
上記では「六波羅蜜」のことを取り上げましたが、一般家庭において厳しい仏教の修行を行うことは現実的ではありません。
そのため一般家庭でもできるお彼岸の取組として、以下のようなものが挙げられます。
1.お墓の掃除
「お盆にお墓の掃除をしたよ」というご家庭も多いかと思われますが、お彼岸でもお墓の掃除を行います。ご家族みなさんで取り組まれるとよいでしょう。
洗剤を使う場合は、その洗剤が墓石に使ってよいものか必ず確認してから使用します。墓所が荒れていると周りの墓所の迷惑にもなりますから、雑草の草むしりなども忘れずに行いましょう。
2.仏壇の掃除
仏壇自体や仏具の掃除を行います。使われている素材によってお手入れの方法が異なってくるので、これも事前に確認してください。仏壇を購入した仏壇店に聞くのがもっとも確実です。
3.お供え物を置く
仏壇やお墓にお供え物を置きます。ただしお墓の場合、現在は鳥害や虫害防止のために「食べ物はダメ」としているところが多いので、この点には注意してください。食べ物をお供えしたい場合は、お墓にお供え→手を合わす→帰るときに引き上げる、のやり方をとればよいでしょう。
4.読経をお願いする
現在ではお彼岸の時期には、ご僧侶は呼ばずに済ませるというケースも多いかと思われます。ただ、初彼岸の際には読経を行ってもらいたいと考えるご家庭もあることでしょう。
この初彼岸のタイミングは、「人が亡くなって四十九日経過後に、初めて迎えるお彼岸」です。たとえば2021年の8月31日に亡くなった場合は、2022年の春が初めてのお彼岸となります。
秋のお彼岸でも春のお彼岸でも、行うことは変わりありません。
ただ秋のお彼岸でお供え物として作られるあんこをまとわせたお餅は「おはぎ」、春に作られる同種のものは「ぼたもち」と呼ばれるという違いはあります。ただこの「おはぎ」「ぼたもち」の違いに関する説もまた、
・2つは同じ材料を使っているが、形が違う
・地域による違いである
など諸説あります。
ご先祖様と向き合うお彼岸、大切にしたいですね。