〔あおき葬祭コラム〕第39回:花祭り(灌仏会)はお釈迦様の生誕日。この由来と行うべきこととは?

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12月25日といえば、キリスト教の「ナザレのイエス(イエス・キリスト)の誕生日」です。実際にはこの日に本当に生まれたかどうかは定かではないとされていますが、世界的にこの日が誕生日であるとして、イベントなどが行われています。

では、世界三大宗教のうちのひとつである「仏教」の始祖の誕生日はいつなのでしょうか?

それについてみていきます。

<4月8日は花祭り(灌仏会)、釈迦の生まれた日>

仏教の始祖である釈迦(お釈迦様、ゴーダマ・シッダールタ)が生まれた日は4月8日だとされています。これも、「ナザレのイエス(イエス・キリスト)」の誕生日と同様、明確な根拠があるものではありません。ただ、世界的に広くこの説が採用されています。

なお、ここでは「4月8日」としていますが、これは旧暦のものです。新暦と旧暦では、およそ30日~40日ほどのずれがみられることもあるからか、5月8日にこれをお祝いするところもあります。

日本においては、この釈迦の誕生日は「花まつり」とされて、さまざまなイベントが行われます。なお、花まつりの別名は「灌仏会(かんぶつえ)」といいます。花まつりの別名としてはこの「灌仏会」がもっとも有名で、しばしば「花祭り(灌仏会)」とされますが(ここでもこの表記を使います)、ほかにも、「仏生会(ぶっしょうえ)」「降誕会(ごうたんえ)」「浴仏会(よくぶつえ)」などのように表記されることもあります。なお、「花まつり」という名称は、「花がほころぶ季節であり、お釈迦様がお生まれになったところで花が咲き乱れていたから」と解釈する向きもあります。

キリスト教のクリスマスに比べると少しマイナーなもののように思われるかもしれませんが、日本での花祭り(灌仏会)の歴史は比較的浅く、積極的に「花まつり」という言葉がつかわれるようになったのは明治時代以降のことだとされています。

ただ、花祭り(灌仏会)自体はその前からあったと考えられています。最初に灌仏会が行われたのは606年、女性の天皇であった推古天皇の時代です。このときには新しい仏像が完成され、数多くの人が集まったとされています。なお、同じように仏教で大切にされている行事である「盂蘭盆会(うらぼんえ。いわゆるお盆のこと)」が確立したのもこの時代ですから、このころは、日本における仏教の進展と体系化ができていった時期だといえるでしょう。

<花祭り(灌仏会)の考え方と、花祭り(灌仏会)の催し物について>



花祭り(灌仏会)は、釈迦の誕生日を祝うために行われるものです。そのため、「ご先祖様の供養をすること」などを目的とした仏教行事とは少し意味が異なります。

また、仏教には数多くの宗派があります。時代が経つに従い、それぞれの解釈によって独立していったものであり、それぞれが異なる考え方を持っています。また、使われる経典や仏壇などにも違いがみられますし、「人は亡くなったらどうなるのか」の解釈も異なります。このため、「とある宗派では良いとされていることが、別の宗派においてはNGとなる」ということもありますし、「とある宗派では行う(あるいは用いる)ものを、ほかの宗派では行わない」ということもあります。

しかし花祭り(灌仏会)の場合、仏教の始祖である釈迦の誕生日を祝う儀式ですから、基本的にはどの宗派でもこの花祭り(灌仏会)を行います。現在は新型コロナウイルス(
COVID―19)の影響でイベントを行うことも難しくなっていますが、それでも、そこかしこのお寺で花祭り(灌仏会)が開かれます。

ただしそんななかにおいて、「日蓮正宗派」は別です。日蓮正宗派の場合、本尊を「日蓮大聖人である」と位置付けます。そのため、釈迦の誕生日である花祭り(灌仏会)の行事は行いません。

なお、しばしば誤解されますが、日蓮正宗派は釈迦の存在を否定しているわけではなく、また疎んじているわけでもありません。日蓮正宗派でも釈迦の存在や釈迦の教えが意味のあるものであることはきちんと認めています。しかし、「お釈迦様の説かれた法華経においては、お釈迦様が入滅されてから2000年が経過したら、お釈迦様の功力がなくなってしまう。その末法の時代において、民草を救うために表れたのが日蓮大聖人なのだ」と考えています。そしてこの日蓮大聖人をこそ、日蓮正宗派では重視します。そのため、釈迦の誕生日である(とされる)花祭り(灌仏会)は、日蓮正宗派においては重要視されないのです。

<花祭り(灌仏会)では何をする?>

ここまで、花祭り(灌仏会)の成り立ちや考え方、それぞれの宗派での取り扱い方についてみてきました。それでは、実際の花祭り(灌仏会)では何が行われるのでしょうか。それを見ていきましょう。

花祭り(灌仏会)において、もっとも注目されているアイテムは「甘茶(あまちゃ)」です。これは「アマチャの木(アジサイ科のアジサイ属ガクアジサイの変種とされる)」からとられるものです。なお、「仏教の行事であること」「その仏教のイベントで使われること」から、アマチャの木およびアマチャは中国やインドのものと誤解されがちですが、アマチャは日本で生まれたものです。フィロズルチンやイソフィロズロチンといった甘味成分が含まれており、自然な、しかしかなり強い甘味を持ちます。「砂糖を溶かしたお茶のような甘さ」と評する人もいます。

「お釈迦様がお生まれになったとき、9匹の龍によって空から美しい水が降らされ、それがお釈迦様の産湯になった」という伝承から、この甘茶を産湯に見立てるという考え方があります。お寺などにある釈迦像(右手を天に、左手を地面に向けている)にこの甘茶をかけて祝うのは、このエピソードからきています。なおこのときには、「灌仏桶」と呼ばれる桶とひしゃくが用いられます。このひしゃくで甘茶をすくって、釈迦像にかけるわけです。

なお甘茶は、このようにしてかけるだけではなく、参拝客に振る舞われることも多いといえます。お寺の花祭り(灌仏会)に足を運ぶと、これをもらえることも多いでしょう。

また、花祭り(灌仏会)は名前の通り、「花」もキーワードとなります。釈迦像は「花御堂」と呼ばれるところに安置されているのですが、ここにはたくさんの花が飾られます。ちなみに、参拝客がお花を持参できるところなどでは、白や黄色の仏花を使った小さな花束が推奨されます。これもまた、「お釈迦様がお生まれになったときには、花が咲き乱れていた」というところからきています。

稚児行列(ちごぎょうれつ)が行われることもあります。平安装束にみたてた衣装を着た子どもたちが行列になり、街などを歩くもので、「子どもの健やかな成長を祈る」「子どもを含む、数多くの人々に教えを広めてくださったお釈迦様への感謝を伝える」という意味があります。なおこの稚児行列の際には白い像(を模したもの)が使われることもありますが、これは、釈迦の母親であったマーヤー夫人が、「6本の牙を持つ白い象を夢で見て、釈迦を見に宿した」というエピソードからきています。

ただ今年は新型コロナウイルス(COVID-19)の影響もあり、「今までは稚児行列をやっていたが、今年は中止にした」というところもみられます。花祭り(灌仏会)に行く際には、最新の情報にあたるようにしてください。

※この記事は、2021年4月1日に作成しています。