少子高齢化が激しい現在、「先祖代々のお墓を維持できなくなってきている」というご家庭もよくみられるようになりました。また、「子どもはいるけれども、子どもに面倒をかけたくない」などのように考える人も多いかと思われます。
今回はそんなご家庭・人のために、「墓じまい」という選択肢を提案します。
墓じまいの意味や流れ、ご遺骨の行先について解説していきます。
<墓じまいの概要と、その意味について>
墓じまいとは、「今あるお墓を撤去すること」をいいます。墓じまいを行う場合は墓石を撤去し、墓地を更地にして、運営団体に返すことになります。墓じまいを行うと、当然のことながら、もうそこの土地にはご遺骨を入れることはできなくなります。
墓じまいが必要となるケースは、ご家庭によって異なります。ただ、比較的よくみられるのは以下のようなケースでしょう。
1.子どもも兄弟姉妹もいない独身者である
2.子どもはいるものの遠方に永住することが決まっている、あるいは不仲である
3.子どもに面倒をかけたくない
4.自分の信じる宗教と子どもの信じる宗教が異なる、あるいは自分自身の宗教への帰属意識が極めて低い
それぞれ解説していきましょう。
1.子どもも兄弟姉妹もいない独身者である
現在の日本は少子高齢化社会です。また、女性の6人に1人程度が、男性の4人に1人程度が生涯で一度も結婚していないという統計もあります。
このことからもわかる通り、今の日本では、「先祖代々の墓を受け継がせるべき相手がいない」「両親の間でできた子どもは自分だけで、自分も結婚の予定がない」という人が相当数います。
このような場合、最後の代が終わったらお墓を継ぐべき人がおらず墓が荒れてしまうことがわかっています。
そのため、最後の代が終わるよりも前に、墓じまいをしてしまおうと考える人が多くなったのです。
出典:男女共同参画局(総務省)「家族の変化(国税調査)」
2.子どもはいるものの遠方に永住することが決まっている、あるいは不仲である
「自分たちは地元に残っているが、子どもは遠方で就職して家も買った。もう帰ってくることはないだろう」
「子どもはいるが不仲であり、10年ほども会っていない。当然、故郷に帰ってくることもないだろう」
などのように、「子どもはいるけれど、お墓の面倒をみてもらうことは難しそうだ」ということで、墓じまいを検討する人もいます。
また、一人っ子同士の結婚であり、かつ片方の実家の側に住み始めた場合は、もう片方の実家のお墓をしまうことを考えなければならなくなることもあります。
3.子どもに面倒をかけたくない
お墓や追悼儀式関係の話は非常に難しく、またとても面倒なものです。そのため、「子どもが近くに住んでいて仲も良いが、そんな子どもだからこそ面倒をかけたくない」「自分の始末は自分で行いたい」「自分が味わった大変さを、子どもに味わわせたくない」と考えて、墓じまいに踏み切る人もいます。
4.自分の信じる宗教と子どもの信じる宗教が異なる、あるいは自分自身の宗教への帰属意識が極めて低い
最後に挙げられるのが、「宗教的な理由」です。これは主に、「寺院に先祖代々のお墓がある」というケースを想定しています。
「先祖代々のお墓は寺院にあり自分も仏教徒だが、子どもはキリスト教の信者である。お寺のお墓には入りたくないと言っている」「自分は宗教への帰属意識が薄い。またそもそも菩提寺に対してあまり良い印象を持っていないので、寺院で供養してもらうべき理由が見つからない」
などのような場合は、「寺院にあるお墓」を墓じまいしたいと願うようになる可能性が高いと思われます。
<墓じまいの流れについて>
ここからは、墓じまいの流れについて見ていきましょう。
1.新しい行先を決める
墓じまいを行う際には、「ご遺骨の新しい行先」を決めることが必須となります。まずはこれを決めましょう。
2.今までお世話になった墓地に連絡をする
今までお世話になった墓地の運営者に、墓じまいを行う旨を伝えます。
3.行政上の手続きを行う
墓じまいを行う際には、行政上の手続きが必要となります。
まず、今までお世話になった墓地がある市町村役場に赴き、「改葬許可申請書」を取ります。その後、新しい墓地の運営者から「受入証明書」をもらいます。
さらに、今までお世話になった墓地の運営者から「埋葬証明書」をもらいます。
これらを合わせて市町村役場に出すことで、「改葬許可証」が出されます。
4.必要に応じて魂抜きを行う
墓じまいを行う際には、必要に応じて魂抜きなどの宗教行事を執り行います。
5.墓石を撤去する
墓石を撤去します。なお墓石は非常に重量があるものですから、自分たちで動かそうとするのは危険です。必ず石材店に依頼してください。
なおこのときに依頼する石材店は基本的には「墓石を作って(建てて)くれた業者」となりますが、それ以外の石材店でも対応はしてもらえます。
6.新しい墓地にご遺骨を入れる
新しい墓地にご遺骨を入れて終わりです。またこのときに、必要に応じて宗教的な儀式を行います。
<墓じまいに関するよくある質問とその回答>
墓じまいの概要と流れは、上記の通りです。
ここからは「墓じまいによくある質問」に答えていきます。
Q1.費用はどれくらいかかる?
A1.お墓の広さによって異なる。ただし、30万円以上の予算は見ておきたい
Q2.墓じまいをしたら、永代使用料は返ってくる?
A2.原則として返ってこない。永代使用料の返還を求めて裁判を起こした人もいたが、その訴えは退けられている。ただし、一部の霊園の場合は、「条件をクリアするのであれば永代少量の半分を返す」としている。
なお墓地はあくまで「借りている」ものであるため、「自分の家の墓じまいは終わったので、ほかの人に墓地を売り払る」ということもできない
Q3.魂抜きなどの宗教的儀式は必要?
A3.「魂抜きを行わなければ、墓じまいをしてはならない」などのような法的な定めはないので、行わなくても墓じまいはできる。またキリスト教の場合は、そもそも「魂抜きの儀式をする」という概念も持っていない。
ただし、仏教を信仰するご家庭の場合などは、「閉眼供養」というかたちで魂抜きを行ったり、「開眼供養」というかたちで新しいお墓をひらいたりすることはある。
Q4.出したご遺骨はどこに行く?
A5.「個別墓から出したので、新しいところでも個別墓に納めなければならない」などの決まりはない。もちろん一般墓地も利用できるが、納骨堂や樹木葬墓地などを利用してもまったく問題はない。また、「この機会に合葬にする」と考えて、合葬墓にご先祖様のご遺骨を入れても構わない。
Q5.既存のお墓は寺院墓地にあった。注意事項はある?
A5.「墓地を取り壊し、樹木葬などに切り替える」となった場合、離檀となるため離檀料が必要になることがある。
なお、「宗教への帰属意識は高く今後も信仰をしていきたいが、仕事の都合で遠方に引っ越してしまって物理的にお墓を管理するのが難しい」などのようなケースは、菩提寺に一度相談をするとよい。元の菩提寺から、引っ越し先の近くにある同じ宗派のお寺を紹介してもらえることもある。
当然のことですが、一度墓じまいをしてしまうと以前と同じ状態に戻すことはできません。後悔をしないように、しっかり知識を得たうえでよくよく考えてからから決断したいものですね。