「お彼岸」という言葉は、日本に住む人にとっては非常になじみ深いものです。
「彼岸」は「あの世」を指す言葉であるとともに、「悟りを開いた人がいるところ」を指す言葉でもあります。
お彼岸のときには、この「彼岸」と「此岸(しがん。私たちがいるところ)」が最も近くなると考えられています。そのため、この日にご先祖様の供養を行おうとする習慣ができあがりました。
なおお彼岸は、春と秋、1年に2回あります。春分の日と秋分の日を基本としてその前後3日間をお彼岸とするため、年によって日付が少し異なることがあります。
2022年の春のお彼岸は、3月18日~3月24日です。
このような「お彼岸の基礎知識」を踏まえたうえで、お彼岸のときのマナーについて見ていきましょう。
<お彼岸のときの服装は喪服? それともそれ以外?>
まずは、お彼岸のときの「服装のマナー」から解説していきます。
お彼岸のときには、基本的には喪服は着用しません。平服で参加するのが基本とされています。ただしこのときの「平服」は、Tシャツやジーンズなどではなく、ある程度あらたまった服装である必要があります。
男性の場合は、暗い色のズボンに白いシャツを合わせるのが基本です。女性ならば、紺色や黒色などのワンピースを選ぶのがよいでしょう。なお女性の場合は、スカートとブラウスなどのように、上下が分かれたもの着用しても問題ありません。
「平服」は、「普段着」と似て非なるものです。お客様をお迎えし、ご先祖様に挨拶するのにふさわしい服装を選びましょう。特にお彼岸供養に参加するのであれば、装いには気を付けたいものです。
もっとも、「ここ10年以上だれも亡くなっておらず、お彼岸は『みんなで集まる日』のようなものになっている」「亡くなった人が、『供養などを行う際は、いつものみんならしいかっこうでお願いしたい』と言っていた」などのような場合は、Tシャツやジーンズなどの服装もある程度許容されることがあります。
また、「遠方から戻る」という場合は、移動中は動きやすいかっこうをしておき、着いたら着替える……というやり方をとっても構いません。
お彼岸のときには、喪服は着用しないのが基本です。これは、たとえ「人が亡くなってから初めて迎えるお彼岸」であっても同じです。
お盆の場合、新盆(初盆ともいう。人が亡くなってから初めて迎えるお盆のこと。多くの場合、宗教的行事を伴う)。ならば喪服を着用することもありますが、お彼岸の場合は初めてのお彼岸であっても喪服は用いないという点には注意しておきましょう。
<お彼岸のときの持ち物~参加する側>
お彼岸のときの持ち物に関しても見ていきましょう。
これは、「参加する側」と「お招きする側」で多少異なります。
参加する側の場合、基本的には手土産を持参するようにするのが望ましいでしょう。持って行かなくても構わないのですが、「お招きいただきありがとうございます」「皆さんで召し上がってください」という気持ちを込めてお持ちするのがより良いかと思われます。
「手土産か、それともお供え物か?」の話はしばしば取り上げられますが、お彼岸の場合は、この2つを厳密に分けて考える必要性はそれほど高くはないと思われます。「お供え物にもできるし、手土産としても使えるもの」を持っていっても構いません。
もちろん、「お供え物は、きちんと掛け紙がつけられたもの。手土産は、ご家族に渡してすぐに食べてもらうもの」という認識を持っている場合は、別々に持って行ってもよいでしょう。
よく選ばれるものとしては、果物やお菓子などが挙げられます。
果物はかご盛りがよく選ばれますが、「うちの県ではブドウがよく取れる」「リンゴの名産地」などのような場合は、それをお供え物としてもかまいません。
また、お菓子を選ぶ場合は、ある程度日持ちのするものでかつ個包装のものが喜ばれます。お彼岸の時期には多くの人から多くの食べ物が寄せられるため、ある程度時間が経ってからでもおいしく食べられるものが好まれます。またその場でふるまわれることもあるので、個包装の方が喜ばれます。
また、果物やお菓子以外にも、飲み物やお花、線香などもお彼岸のお供え物・手土産の好適品です。
飲み物ならば小さな缶に入ったジュースなどがよく選ばれますが、故人が好きなお酒があった場合はそれを選んでもよいでしょう。洋酒であっても構いません。
お花は、仏事の基本として、落ち着いた色のものを選びます。白いトルコキキョウや白いユリ、あるいは白いカーネーションなどに、葉っぱの緑の差し色を入れたものなどが好まれます。ただし故人が好きだった花があるのなら、それを採用するのもよいでしょう。なおお彼岸の場合は、菊などに代表される仏花以外のものを選んでも構わないとされています。
現在はフラワーアレンジメントとしてそのまま飾ることのできるお花も出ているので、これを選ぶのもおすすめです。
仏教行事のときに必ずといっていいほどみられるのが「線香」です。何を持っていけばいいのか迷ったときは、線香を持参しましょう。線香ならば腐りませんし、お彼岸が終わった後も利用できます。
お彼岸のときのお供え物・手土産の相場は、3000円~5000円程度です。
また、お供え物として持っていく場合は、黒白の水引あるいは黄白の水引に「お供え」とした掛け紙をかけるようにします。
これ以外の持ち物としては「数珠」「ハンカチ」などが挙げられます。
<お彼岸のときの持ち物~お招きする側>
「お招きする側」になったときは、お墓参り用の持ち物を準備します。
お線香やお花、ろうそく、また掃除用具としてのスポンジやタオルやホウキなどを用意します。また、「毎週お参りしている」などの状況でないのなら、雑草が伸びていることも予想されます。そのため、軍手や草刈り鎌などを持っていくようにした方がよいでしょう。ゴミ袋もしっかり用意しましょう。
ひしゃくなどは、基本的には霊園に設置されているはずですから、これを使ってしまっても問題はありません。
墓前にお供えする果物やお菓子を持参しても構いませんが、現在はほとんどの霊園が「お供え物は花やろうそくのみ。果物やお菓子は持って帰って」としているかと思われます。これは鳥害や虫害、腐敗臭を防ぐための措置です。そのため、果物やお菓子をお供えする場合は、「帰るときに回収すること」を忘れないようにしてください。
お墓参りをするときには、数珠も持っていきましょう。ちなみに数珠は厳密には宗派によって形状が異なるものですが、それが問われることはほとんどありません。手持ちの数珠で十分です。
お招きする側の「持ち物」としては上記のような「墓参りのための持ち物」が挙げられるのですが、それ以外にも準備すべきものはあります。
仏壇をきれいに掃除し、お花やお供え物をしっかりと用意しましょう。
また足を運んでくれる人のために、お茶やお茶菓子も用意しておきたいものです。
お彼岸のときにご僧侶様をお呼びして個別で法要を行うというお宅はそれほど多くはないでしょう。ただこれをする場合は、当然ご僧侶様にお渡しするお布施が必要です。目安としては30000円程度でしょう。また、ここにさらに「お車代」として5000円程度を包むこともあります。
大切なご先祖様と向き合うお彼岸、しっかり準備したいものですね。