故人と向き合うことのできる「仏壇」は、仏教徒にとって特別な意味を持つものです。毎日ここにお供え物を置き、手を合わせる……という人も多いことでしょう。
ただ、私たちが当たり前に行っている「お供え」について、「なぜお供えをするのか」「そもそもお供えにはどのような意味があるのか」と疑問に思ったことのある人もいることでしょう。
ここではお供えを行う意味について解説していきます。
<仏壇のお供えには多くの意味がある>
「なぜ仏壇にお供えをするのか」については、さまざまな説があります。
ただそのなかでも中心的なのは、以下の3つでしょう。
1.ご先祖様の供養のためにお供えするものであり、故人の喉の渇きなどを癒すためである
2.私たちが日々生きられていることに感謝して行うものである
3.同じものを食べて、故人と生きている人間がつながるためのものである
これらの意見のなかで、「どれが正しい・どれが間違い」とはなかなか言えないものです。「1の意味を持つが、2の意味もある」「故人は食事は召し上がらないため2の意見を取るのが基本だが、ほかの生物に対する感謝の意味も込められている」「3の意味と1の意味がある」などです。
宗派によっても考え方に違いがありますし、サイトによっても見解は異なります。ただどの立場をとるにしても、「大切な故人のために」と願って行うものであることは共通しています。
なおキリスト教や神道においても、多少かたちは違えども、「大切な亡き人に物をささげる」という風習はあります。たとえばキリスト教では白い花がよく祭壇のお花として選ばれますし、神道では葬儀でもよく使われている榊が供えられます。
※なおここでは特筆しない限りは、「仏教(仏壇)のお供え」として話を進めていきます。
<仏壇に供えられるもの~仏教において大切になる5つのお供え>
仏壇にささげられるお供えは、
・ご飯
・水(飲み物)
・香
・花
・ろうそく(灯り)
の5つが基本です。この5つを以って、「五供(ごくう)」と呼びます。さまざまな宗派で広く用いられているお供えであり、平時ではこれらの5つを仏壇にささげるとよいでしょう。
一つずつ解説していきます。
【ご飯】
五供の基本ともなるものです。上でも少し「お供えの意味」について解説しましたが、ご飯は特に解釈が分かれるもので、「故人と同じものを食べることで結びつきが強くなる」「亡くなった人はご飯は召し上がらないので、これは感謝の意味を込めてお供えしているにすぎない」とする意見も出てきます。
ただいずれの説を取る場合でも、「炊き立てのご飯を一番初めにお供えする」というやり方には変わりありません。「仏様はご飯そのものは召し上がらない」とする説を取る場合であっても、炊き立てのご飯の香りが仏様の食事となるとも言われています。
このご飯は、特に「仏飯(ぷっぱん)」と呼ばれます。浄土真宗においては、本願寺派(西)と大谷派(東)では供え方が異なります。本願寺派の場合は、ハスのつぼみに見立てて柔らかい三角形に盛るのがよいとされています。対して大谷派の場合は、ハスの実に見立てて円柱状に盛り付けるのが正しいとされています。また、ほかの宗派では決まりはありません。
なお、「三角形に盛り付けることはできるが、円柱形に盛り付けるのは非常に難しいのでは?」と感じる人もいることでしょう。このような人のために、「仏飯を円柱形に整えるための道具」なども販売されています。
下げた後のご飯は、家族みんなで「おさがり」としていただきます。お供えしてから20分程度してから下げるとよいでしょう。
ちなみにここでは「ご飯」としていますが、「故人はパンが好きだった」「いつもパン食なので、ご飯は炊かない」などの事情があるのなら、お米ではなくパンをお供えしてもよいでしょう。おいしいお気に入りの店のパンをお供えすると、故人がより身近に感じられるかもしれません。
【水(飲み物)】
仏教に限ったことではありませんが、「水」は非常に尊ばれるものです。
仏教では仏壇にお供えする水を、「自らの心を洗い清らかに保つため」「仏様の乾きを癒すため」と解釈しています。一概にどちらが正しいとはいえませんが、比較的よく見るのは、前者の解釈の方でしょう。これは、「仏様がおられる極楽浄土においては、8つの功徳をたたえた泉があり、これによって乾きが癒されるから」というところからきています。特に浄土真宗では、この説をとることが多いといえます。
ただ、「亡き人を思いやってお供えをする気持ち」は非常に尊いものですから、「乾きを癒したい」と考えてお供えする気持ち自体は否定されるべきものではありません。
また、ここでは「水」としていますが、お茶をお供えしても構いません。ちなみに両方をお供えするのもよいとされています。両方をお供えする場合は、東側にお茶を、西側に水を置くことが一般的ですが、厳密な決まりはありません。
【香】
仏様は、香を召し上がるといわれています。仏壇やお墓に線香などが置かれるのはこのような理由からでもあります(昔は獣除けに使われていたという側面もありました)。
仏壇にお供えする香は厳密には、
・本数は何本か
・頭に押しいただくか、押しいただかないか、また押しいただく場合は何回か
・線香の場合は立てるのか、横にするのか、またそのまま使うのか折るのか
などの違いがあります。たとえば浄土真宗大谷派では頭に押しいただいてから折って横にする、とされています。
ただ、家庭でこのように厳密な決まりを守るのは難しいでしょう。大切なのは「心を込めること」だと考えておくことをおすすめします。
【花】
仏壇にはよく花をお供えします。花は故人の心をお慰めするものであるのと同時に、「厳しい自然のなかでもたくましく生き抜く花」に仏教の修行を続ける人の姿を重ねることができるということから、仏壇にお供えするようになったといわれています。
仏壇にお供えする花は、黄色や白のものがよく選ばれます。特に菊は仏壇の花として広く使われています。
原則として、トゲのあるものや香りが強すぎるものなどは避けます。また、枯れやすい花も避けた方が無難です。
ただし、「故人はバラの花が好きだった」「故人の育てていたゆりが、今年もきれいに咲いた」などのような状況ならば、これらをお供えするのもよいでしょう。トゲのある花の代表格であるバラや、強い香りを持つゆりは、仏壇へのお供えとしては一般的には避けられます。しかしお供えは「故人を思って行うもの」ですから、故人の思い出とつながっているお花ならばきっと喜ばれることでしょう。
【ろうそく(灯り)】
ろうそくに代表される「火」は、清めの効果を持ち、魔から人を守る役割を果たすとされています。また仏教においては、仏様の功徳を表し、生きている者の煩悩を取り除いてくれるものとも考えられています。加えて、「智慧の象徴」ととらえられることもあり、お供え物のなかでも非常に重要な役目を果たします。
一般的な白いろうそくが使われますが、ご家庭によっては絵の入ったものなどを使うこともあります。
また現在は火災防止の観点から、電気式のろうそくが用いられることもあります。
故人のことを考えてお供えを選び、盛り付け、お出しする時間は、それそのものが供養となるでしょう。優しい気持ちで向き合いたいものですね。