仏教と葬儀

日本仏教の葬儀との係わり

 仏教の葬儀との係わりは古いです。7世紀前半の聖徳太子の葬儀に仏僧が係わったとの記録があります。仏教は、天皇・貴族・武士の葬儀には早くから係わったものの、民衆の葬儀に本格的に係わるようになったのは、15世紀の室町時代以降だと言われています。
 民衆の葬儀への仏教の本格的取り組みは、ちょうど仏教が民衆化を進めた時期と一致しており、仏教の民衆化は葬祭を媒介に進行しました。この中で民族との融合も進んだと言われています。
 特に、江戸時代中期に幕府が宗旨人別帳の作成を定め、檀家制度を法制化したことが大きく影響しています。明治政府はこれを改めましたが、以後、檀家制度は民衆の中で残り、これの中心になったのは葬儀や墓でした。
 今日、葬送習俗には仏教の影響が色濃く残っています。また仏教葬儀にも民族の影響が色濃く残っています。日本の仏教の民衆化形態として「葬祭仏教」がありますが、これは日本の葬送文化を特徴づけています。
 戦後、非宗教化の波が激しく、都市化も重なり寺壇関係は弱まったと言われていますが、日本人の9割が仏教葬儀を行っているのが実態です。しかし、1990年代以降、葬送の見直しの機運の中で葬祭仏教も大きく問われるようになってきています。

仏教葬儀の意味

 在家つまり僧侶でないものの葬儀法は禅宗の亡僧喪儀法(僧侶の葬儀法を尊宿喪儀法と言います)から発達しました。亡僧とは修行途中の僧侶見習いが死んだときの葬儀法のことです。仏法を教え、戒を授け、僧侶としての出家名である戒名を授与し、あの世へ行く心構えを説き引導を渡しました。
 仏弟子とする通過儀礼を生者の世界からあの世への通過儀礼に模しました。江戸時代には実際に死者の頭を僧侶にならい剃髪しました。
 構造的には、死者に対して仏弟子とするために授戒し、仏弟子として引導を渡し浄土に送る、あるいは成仏させるというものです。修行中の僧侶に対するものからの発展ということからわかるように、死者はすぐ浄土へ赴く、あるいは成仏するのではなく49日の間は修行するという考えも見られます。これは輪廻転生の思想の影響を受けたものと言われています。葬儀でしばしば六道(地獄、畜生、修羅、人間、天上)が登場し、葬具にも見られるのはここからきています。香典の表書きを四十九日までは「御霊前」とし、その後は「御仏前」とするのはここから来ています。
 葬儀は通常の各宗派の法要儀礼に授戒と引導が加わったものとなっています。
 修行中の死者を助けるために遺された者が供養するという追善供養の思想もあります。これは遺族が困った人に布施したり、法事を営み仏道に励んだりして積んだ徳を死者に振り向ける(=回向する)ことです。四十九日(中陰)の間は特に手厚くすべきだとされました。これは死別した遺族が悲嘆(グリーフ)に陥り営む喪の作業をシステムとして保証し、仏教的に意味づけたものと言うこともできるでしょう。死別直後で精神的に混乱の中にある遺族を忌中として保護しました。
 忌中には死の穢れに染まっている時期とする穢れ思想の影響もあり、この用語の見直しも真宗から提起されています。
(注)真宗では忌中を「還浄(げんじょう)」あるいは「帰浄(きじょう)」と言うべきという議論があります。

浄土真宗の葬儀

 真宗は仏教教団の中でも特異な位置にあります。他の宗派同様、民衆の葬儀に係わってきましたが、往生即成仏であることから授戒も引導もありません。人の死を機縁として本尊阿弥陀仏如来に対して報恩感謝し、仏の教えを学ぶ聞法の場と葬儀を位置づけています。霊を認めず穢れを祓うという考えも排除し、追善供養も死者への回向も認めていません。したがって霊前に浄水や飯を供することもしません。位牌もありません。また。香典の表書きには「御霊前」ではなく常に「御仏前」となります。

(注)位牌は中国で儒教の影響下で例の依り代として生まれたものです。新葬祭の霊璽に相当します。霊を認めない真宗では位牌を作りません(高田派や興正派は例外)。但し、遺族の希望で葬儀では白木位牌を作ることも便宜的にはありますが仏壇には納めません。

戒名

 仏弟子として守るべきものが戒です。仏弟子となるには僧侶から会を授与され(授戒)、仏弟子となった証として戒名を授かります。
 戒名は僧名と等しく2字が本来で、一般的に

〇〇院△△■■大妹
という構造を取ります。
「〇〇院」は院号と言い、寺への貢献度を表し、かつては寺院を建立したほど深く貢献した証として授けられました。
「△△」の部分は道号と呼ばれ、本来は仏道を極めた者の出世の称号です。宗派戒名が来ます。
「大妹(居士、信士、信女など)」は位階や性別を表す位号となります。
 本来の戒名である法号は「■■」も部分の2字。法号以外は修飾語となります。
 真宗は在家道なので戒律はなく、仏法に帰依した聞法者という意味で「法名」と言います。基本は釈尊の弟子と言うことで「釈■■」、女性は「釈尼■■」とすることもある。院号がつき「〇〇院釈■■」となることもあるが高田派などを除き、道号も位号もありません。
 戦後、戒名が都市部を中心に金額で取り引きされる風潮が生じ、「戒名料」あるいは「お経料」という言い方が慣習化しました。近年各伝統仏教教団の団体である全日本仏教会が、お寺に納めるのは料金ではなくあくまで感謝を自由意思で表現する「お布施」であるとし、「戒名’(法名)料」「お経料」の呼称は用いないという報告書を発表しています。

法要としての葬儀

 各仏教宗派に共通するのは、葬儀は法要の場ということです。そのため本尊を掲げ、仏前を荘厳します。各宗派の法要として営まれている以上、宗派に合わせた荘厳を心がける必要があります。本尊の有無を特に問題にするのは浄土真宗、浄土宗、日蓮宗です。
①浄土宗
 阿弥陀仏の絵像または「南無阿弥陀仏」の6字の名号が書かれた掛け軸。
②浄土真宗
 阿弥陀仏の絵像または「南無阿弥陀仏」の6字の名号の他に、「南無不可思議光如来」の9字名号、「帰命尽十方無碍光如来」の9字名号の掛け軸。
③日蓮宗
 「南無妙法蓮華経」と中央に大書し、周囲に諸仏・諸菩薩などの名前が書写された大曼荼羅。
④真言宗
 大日如来、観音菩薩、地蔵菩薩、不動明王等。それぞれの寺院の絵像が用いられることがある。位牌の頭に書かれた梵字の「阿」を見立てることがある。
⑤禅宗
 釈迦牟尼仏ほか各寺院の本尊の絵像。特に形をとらないことも。十三仏の絵像も使われる。
⑥天台宗
 阿弥陀仏、釈迦牟尼仏、薬師如来など多様であり、各寺院の本尊の絵像を用いることも。

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